―絵本制作ドキュメント―
まず最初に、このプロジェクトが、どうして立ち上がったのかをお伝えします。
このプロジェクトは、上村亮太が制作したひとつの美術作品(アートブック)から始まりました。
上村は、それを神戸にある「ギャラリー島田」のオーナーである島田誠に託し、
これを見た島田は、やがてこれを「出版という形で世に出したい」と願うようになります。その思いは数年にわたって、島田の胸の内に大切に秘められていました。
長年絵本の編集をしてきたフリーエディターの松田素子が、神戸に移住したことで、
2018年の暮れに島田と知り合い、そこで島田から、出版についての相談を受けました。
島田は語りました。
「上村亮太の作品に対しての深い思いはもちろんのこと、神戸というこの場所から何かを発信していきたい。そしてそれが、未来の表現者たちにとっての前例となり、さまざまなアーティストをサポートする地盤となるような形を、この地に根付かせたい――という思いです。」
「この場所から」という島田の思いを受けて、松田は長年の仕事相手である神戸の出版社、BL出版の社長、落合直也に相談。協力に対しての快諾を得ました。
元町にあるアートブックのセレクトショップ「storage books」のオーナーであり「神戸デザインセンター」のデザイナーでもある濱章浩が、デザイナーとして参加することが決定。
実働的なチームメンバーとして、ギャラリー島田からは林淳子が参加。
そしていよいよ2019年春に、このメンバーを中心とした「チーム・アネモネ」が結成され、出版プロジェクトが本格的に始動しはじめました。
当初は、島田の提案の通り、「アートブック」という名のもとに、その作品をそのままの形で出版へ移行させるという計画でしたが、「絵本」の出版という場で松田が経験してきたことや、伝えること、また伝わることの大切さを上村と話しあった結果、上村の中に、いわゆる自己表現を超えた思いが生まれ、作品が変化していくことになりました。
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